みの念を覚えた。彼はいったい子供が大好きだった。その隣の娘たちに階段で出会うと、いろんなやさしい素振りを見せた。娘たちは初め恥ずかしがっていたが、クリストフからいつも面白いことを言われたり菓子をもらったりしたので、やがて馴《な》れてきた。そして両親にも彼の噂《うわさ》をした。両親は初め、彼のそういう好意をかなり悪意の眼でながめていたが、ついにはその騒々しい隣人の磊落《らいらく》な様子に気が折れてしまった。それまでに彼らは一度ならず、頭の上のピアノの音や忌ま忌ましい騒ぎ――(というのは、クリストフは室の中が息苦しくて、檻《おり》の中の熊《くま》みたいに動き回っていた)――などを呪《のろ》ったものだった。両方で口をきき合うようになるには容易なことでなかった。クリストフのやや田舎《いなか》者じみた乱暴な様子に、ユリー・エルスベルゼはびっくりすることがあった。そして、このドイツ人と自分との間に遠慮の垣《かき》をいつまでも築いていて、その後ろに隠れようとしたけれど、そうはゆかなかった。善良なやさしい眼で人をながめる彼の強い快活な気分には、逆らうことができなかったのである。クリストフは時たま、その
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