的な精神のためにローマ法王から懲戒された。その懲戒を彼は甘受した。心の底では承服しなかったのであるが、しかし口をつぐんで、抗争しようともせず、その信条を公表する手段を申し込まれたのも断わり、騒がしい世評をのがれ、涜神《とくしん》の名を取るよりも自分の思想の滅亡を好んだのだった。そういうあきらめた反抗者の人柄が、クリストフには理解できなかった。彼はその牧師と話をしようと試みた。しかし牧師はたいへん丁寧で、冷淡な様子で、自分の身にもっとも関係深いことは少しも語らず、厳としておのれを生き埋めにしていた。
下の階には、クリストフとオリヴィエの住居と同じ間取りの部屋に、エリー・エルスベルゼという家族が住んでいた。技師とその細君と七歳から十歳ほどの二人の娘とであった。同情の念に富んだ上品な人たちで、ことにその困窮な身分についての誤った恥じらいから、家に引っ込んでばかり暮らしていた。若い細君は甲斐《かい》がいしく家事をつかさどっていたが、困窮をひどく苦にやんでいた。その困窮を人に隠すことができるなら、二倍の労をもいとわなかったであろう。それもまたクリストフにはわからない感情だった。この一家は新教
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