食われていた。屋根裏に住んでるクリストフとオリヴィエとの部屋には、雨漏りがしていた。どうにか屋根を繕うために、職人を呼ばなければならなくなっていた。職人らが頭の上で仕事したり話したりするのが、クリストフの耳に響いた。ことにその一人は、クリストフを面白がらせまた煩《うる》さがらせた。その男はたえず休みなしに、一人で口をきき、笑い、歌い、駄洒落《だじゃれ》を並べ、つまらぬ口笛を吹き、独語《ひとりごと》を言い、始終働いていた。何かするごとにかならずそれを口に出した。
「も一本|釘《くぎ》を打ってやれ。道具はどこにあるんだ? 釘を一本打ったぞ。二本打ったぞ。も一つ金槌《かなづち》でとんと! そら、これでよし……。」
 クリストフが演奏するとき、彼はちょっと黙って耳を傾け、それからまたますます口笛を吹きたてた。面白い楽節になると、金槌でたたきながら屋根の上で調子をとった。クリストフは向かっ腹をたてて、しまいには椅子《いす》の上にあがり、その屋根裏の風窓から顔を出して、怒鳴りつけてやろうとした。しかし、その男が屋根にまたがり、善良な快活な顔つきをし、頬《ほお》をふくらまして釘《くぎ》を頬張《ほおば
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