とはまったく異なっていた。
クリストフはフランスについてあまりに無知だったので、その特質の不変さをよく見てとることができなかった。この豊かな景色のうちで彼がことに驚いたものは、土地の極端に細かい区分だった。オリヴィエが言ったように、各人が自分の庭をもっていた。そして各地面は、壁や生籬《いけがき》やあらゆる種類の仕切りで、たがいに分かたれていた。たかだか、共通の牧場や森が散在してるきりであり、あるいは、川の一方に住む人々が、対岸の人々よりも、たがいに接近させられてるくらいのものだった。そして各人が自分の家に閉じこもっていた。そういう嫉視《しっし》的な個人主義は、たがいに隣り合って数世紀間暮らしてきたあとにも、衰えるどころかかえって強くなってるかのようだった。クリストフは考えた。
「彼らはなんと一人ぽっちのことだろう!」
クリストフとオリヴィエとが住んでる家は、そういう意味でもっとも特長あるものだった。それは小世界の縮図であった。種々の要素をたがいに結合する何物もない、正直勤勉な小フランスであった。六階建ての古いぐらぐらした家で、一方に傾いており、床板《ゆかいた》はきしり、天井は虫に
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