荒らしに来さえしなければ、彼らはその結果のいかんを気にかけはしない。ただ畑を踏み荒らされる場合にだけ、彼らは腹をたてて、いずれの党派をも構わずにいじめつける。彼らはみずから動き出しはしない。ただ彼らの仕事と安静とを邪魔する放埓《ほうらつ》にたいしてだけ、いかなる方面をも問わず反発する。国王、皇帝、共和党、司祭、結社党、社会党、またその首領がだれであろうと、彼らがそれに向かって求めるところのものは、一般の大危難、戦争や騒動や疫病、などから彼らを守ってくれることだけだ――それ以外にはただ、平和に庭を耕さしてもらうことだけだ。彼らは心の底ではこう考えている、『あの畜生どもは俺《おれ》たちの邪魔をしやすまいか』と。ところがその畜生どもはいかにも愚かで、この朴訥《ぼくとつ》な民衆をじらしぬき、鍬《くわ》を取って追い出されるまではやめようとしないのだ――ちょうどそういうことが、現代の勢力者らにもいつか起こるだろう。昔は民衆も大事業に熱中したものだ。そしてもう長い前に若気の過《あやま》ちをしつくしてきながら、おそらくはまだそれをふたたびすることもあるだろう。しかしとにかく、その熱中も長つづきはしない
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