。すぐに彼らは古来の伴侶《はんりょ》のもとに、土地に、もどってゆく。フランス人をフランスに執着させるものは、フランス人よりもむしろ、その土地なのだ。その善良な土地の上に相並んで数世紀来働いてきたフランス人は、多くの異なった民衆から成ってはいるが、彼らを結合さしてるのはその土地であり、彼らがもっとも愛してるのはその土地である。幸福のうちにも不幸のうちにも、彼らはたえずその土地を耕しつづけている。そして何物でも、たとい尺寸の地面でも、彼らにとっては親愛なのだ。」
クリストフはうちながめた。道路の傍《かたわ》ら、沼沢の周囲、岩の斜面の上、実行の戦場や廃墟《はいきょ》の間、フランスの山も野もすべては、見渡す限り遠くまで、耕耘《こううん》されていた。それはヨーロッパ文明の大庭園であった。その比類なき魅力は、豊饒《ほうじょう》なりっぱな土地にかかってるとともにまた、不屈|不撓《ふとう》な民衆の努力にかかってるのだった。彼らは数世紀来かつて絶え間もなく、その土地を耕し種まきますます美しくなしていた。
不思議な民衆である! だれでもこの民衆を移り気だと言っているが、しかもその内部にはなんらの変化も
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