く》に光る顔、
つと伸び縮みする筋肉《にく》逞《たくま》しき背……
[#ここで字下げ終わり]

などの人間神ら、息を切らしてる労働者ら、彼らの間における争闘であった。
 それは、「知性の氷塊」の上に落ちかかる黒光りの明るみの中における、絶望的な狂喜をもってみずからおのれをさいなんでる、孤独な魂たちの悲壮な苦悶であった。

 そういう理想主義者らの多くの特質は、一ドイツ人にとっては、フランス的というよりもいっそうドイツ的であるように思われた。しかしながら、だれも皆「フランスの微妙な説話」を愛していたし、ギリシャ神話の養液が彼らの詩のうちに流れていた。フランスの風景と日常の生活とは、ある人知れぬ魔力によって、彼らの瞳《ひとみ》の中ではアッチカの幻影となっていた。あたかもそれら二十世紀のフランス人らのうちに、古代の魂が残存してるかのようであり、その魂は美しい裸体にふたたびもどるため、近代の破れ衣を脱ぎ捨てたがってるかのようだった。
 かかる詩の全体からは、ヨーロッパ以外ではどこにも見出し得られない、数世紀間に成熟した豊富な文明の香《かお》りが発散していた。一度|嗅《か》げばもはや忘れることの
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