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という魂たちから湧《わ》き出る信仰の泉、敬虔《けいけん》な喜び。または、

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世の常ならぬ光を放てる
気高き顔もて……
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人をなだめ微笑《ほほえ》みかける、よき悲しみ。または、

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やさしき眼をば見開ける静けき死。
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 それは清浄な声々の交響曲《シンフォニー》であった。コルネイユやユーゴーなどのような民衆的らっぱほどの響きをもってる声は一つもなかった。しかしその演奏はそれよりもいかに探さと色合いとに富んでいたことだろう! それこそ現在のヨーロッパじゅうでのもっとも豊かな音楽だった。
 オリヴィエは黙然としてるクリストフに言った。
「もうわかったろうね?」
 こんどはクリストフのほうから黙っていてくれとの様子をした。彼はもっと男々《おお》しい音楽のほうを好んではいたけれども、聞こえてくるその魂の森と泉とのささやきに恍惚《こうこつ》となっていた。その森と泉とは、諸民衆の一時的な争闘の間で、世界の永遠の若さを、

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美の温良さ
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