リアス[#「イーリアス」に傍点]のごとき熱火の跡がどこにあるのか。詩人らにだけは世界の詩が見えないのか。」
「まあ急《せ》くなよ、君、急《せ》くなよ!」とオリヴィエは彼に答えた。「黙って、口をきかないで、耳を傾けてみたまえ……。」
しだいに、世界の心棒のきしる音が消え、舗石の上に響く実行の重い車のとどろきが、遠くに消え去っていった。そして、静寂の崇高な歌が起こってきた。
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蜜蜂の羽音、菩提樹《ぼだいじゅ》の香り……。
黄金《こがね》の唇《くち》もて野面《のづら》を掠《かす》むる
風……。
薔薇《ばら》の香《か》こめしやさしき雨音。
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詩人らの槌《つち》の音が聞こえてきた。それは花瓶《かびん》の側面に種々のものを彫りつけていた。
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いとも素朴《そぼく》なるものの高き品位。
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または、
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黄金の笛と黒檀《こくたん》の笛とを持てる
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真面目《まじめ》な快活な生活。または、
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如何《いか》なる影をも明るしとなす
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