誤っている。フランスは恐れて口をつぐみ、自分のうちにその思想を恐る恐る引っ込めてしまっている……。僕は昔それらのことをひどく苦しんだ。しかしクリストフ、僕はもう今では落ち着いている。僕は自分の力を悟り、わが民衆の力を悟った。洪水が通り過ぎるのを待ちさえすればよい。洪水もフランスの美《うる》わしい花崗岩《かこうがん》を浸食しはしないだろう。流されてきた泥《どろ》をかきわけて、僕は君にその花崗岩をさわらしてあげよう。そしてもうすでにここかしこに、その高い岩の頭がのぞき出している……。」

 クリストフは、彼と同時代のフランスの詩人や音楽家や学者などを活気だたせてる、理想主義の巨大な力を見出した。一時的大家らが、露骨な肉感主義の騒々しさで、フランス思想の声を押っかぶせてる一方に、あまりに貴族的なフランス思想は、そういう下賤な徒輩の傲岸《ごうがん》な叫び声と暴力的な戦いをなすのを好まないで、ただその熱烈な専心的な歌を、自分のためと自分の神のためとに歌いつづけていた。そして外界の厭《いや》な喧騒《けんそう》を避けたがって、もっとも奥深い隠れ場所の中に、自分の城楼の中心に、引っ込んでるかの観さえあ
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