ヒようともしなかった。オリヴィエもそんなことは念頭になかった。もってるだけのものをすべてクリストフに渡した。そしてまるで子供のめんどうをでもみるように、クリストフの世話をやかなければならなかった。クリストフを停車場まで連れてゆき、汽車が動き出すまでそのそばを離れなかった。
クリストフは夜の闇《やみ》の中に包まれてゆきながら、眼を大きく見開いて前方を見守り、そして考えていた。
「間に合うだろうかしら?」
母が来てくれと書いてよこした以上は、母はもう待っておれないに違いないことが、明らかにわかっていた。彼はいらだちながら特急列車の疾駆をもどかしがった。ルイザのもとを離れたことを苦々《にがにが》しく自責するとともにまた、その自責がいかほど無駄《むだ》なものであるかを感じていた。事の成り行きを変えるのは彼の力には及ばなかったのである。
そのうちに、客車の車輪と弾機《ばね》との単調な動揺は、しだいに彼を落ち着かせ、あたかも音楽から起こされる波が力強い律動《リズム》にせきとめられるように、彼の精神を支配していった。彼は遠い幼年時代の夢から現在までの全過去を、ふたたび眼の前に浮かべた。恋愛、希
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