ネかで彼は、「私は愛のために生まれました[#「私は愛のために生まれました」に傍点]、憎みのために生まれたのではありません[#「憎みのために生まれたのではありません」に傍点]、」というアンチゴーネの銘言を繰り返したがっていた。――愛のために、そして、愛の別形である叡智《えいち》のために、生まれたのだった。クリストフにたいする情愛からだけでも、彼はおのれの義務を明らかに示された。幾百万の人々が憎み合おうとしてるときにさいして彼は、自分とクリストフとのような二つの魂の義務ならびに幸福は、この擾乱《じょうらん》のうちにおいてたがいに愛し合い完全な理性を保持することだと、感じていた。一八一三年にドイツをフランスへ飛びかからしめたあの解放的|憎悪《ぞうお》の運動に、加わることを拒んだゲーテのことを、彼は思い起こしていた。
クリストフはそれらのことを感じてはいたが、少しも落ち着けなかった。彼はドイツから言わば脱走してきて、ドイツへ帰れない身であり、老友シュルツがあこがれてるあの十八世紀の偉大なドイツ人らがもっていたヨーロッパ的思想に育てられ、軍国的で営利的な新しいドイツの精神を軽蔑《けいべつ》して
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