ョかされていた。正直なドイツ人は、いかに真摯《しんし》なラテン人といえどもその熱烈な自尊心のためにもち合わしていないある誠実さを、議論に差し入れてくるものである。クリストフは、歴史の各時代に各国民がなしている同様な罪悪の実例を、あえてもち出そうとは考えなかった。そういう恥ずかしい弁解をなすにはあまりに傲慢《ごうまん》だった。人類が向上すればするほど、その罪悪はますます光明に照らされるゆえにますます嫌悪《けんお》すべきものとなることを、彼は知っていた。しかしながら、もしフランスのほうが勝利を得た暁には、フランスはドイツと同様に勝利のうちに自制することなく、罪悪の鎖になお一個の環を加えるであろうということをも、彼は知っていた。かくて、悲しむべき争闘は永久につづいて、ヨーロッパ文明の最善のものが破滅し終わる恐れがあるだろう。
この間題はクリストフにとって苦しいものではあったが、オリヴィエにとってはさらにいっそう苦しいものだった。それは、もっとも結合しやすい両国民間の兄弟|相鬩《そうげき》的な争闘の悲しみ、というだけではまだ十分でなかった。フランス自身のうちにおいて、国民の一部は他の一部と戦
前へ
次へ
全333ページ中287ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング