、されてるのなら、なぜ結婚しないんですか。」とクリストフは言った。
 アンドレはセリーヌが僧侶《そうりょ》派であることを嘆じた。僧侶《そうりょ》派とはどういうことかとクリストフは尋ねた。その答えによれば僧侶派とは、宗教上の務めを守り神や坊主どもに奉仕するということだった。
「そしてそれがなんの妨げになるんですか。」
「だって僕は自分の妻が自分以外のものに所有されることを望みません。」
「ほう、あなたは細君の思想にまで嫉妬《しっと》するんですか。じゃああの少佐よりもあなたのほうがいっそう利己的だ。」
「それは勝手な理屈です。たとえばあなたは音楽を愛しない女をもらえますか。」
「もらおうとしたこともありますよ。」
「思想が違っててどうしていっしょに暮らせるでしょうか。」
「そんなことをくよくよ考えるには及ばないでしょう。なあに、愛するときには思想なんかどうだって構わない。僕の愛する女が僕と同じく音楽を愛してくれたって、なんの足しになるものですか。僕にとってはその女が音楽なんです。あなたのように、相愛のかわいい娘があるという喜びを得るときには、彼女は彼女の好きなものを信ずるがいいし、あなたは
前へ 次へ
全333ページ中248ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング