トいって、ビールを命じた。空気は気持よく暖まっていて、蜜蜂《みつばち》の羽音が響いていた。クリストフは何しに来たのか忘れていた。バールトはビールを一本|空《から》にしながら、ちょっと沈黙のあとに言った。
「僕は仕事の予定をたててみた。」
 彼は一杯飲んで言いつづけた。
「まだ時間があるだろうから、済んだあとでヴェルサイユに行くつもりだ。」
 グージャールが主婦《かみ》さん相手に決闘場所の借り賃を値切ってる声が聞こえていた。ジュリアンは時間を無駄《むだ》に費やしてはいなかった。自転車乗りたちのそばを通りすがりに、女の裸の脛《すね》を騒々しくほめたてた。それにつづいて卑猥《ひわい》な言葉が一時に落ちかかってきたが、彼も負けてはいなかった。バールトは小声で言った。
「フランス人て実に穢《けが》らわしい奴らだ。君、僕は君の勝利を祈って飲むよ。」
 彼はクリストフのコップに自分のコップをかち合わした。クリストフは夢想にふけっていた。音楽の断片が虫の調子よい羽音とともに頭に浮かんでいた。眠たくなっていた。
 他の馬車の車輪が径《みち》の砂に音をたててきた。いつものように微笑《ほほえ》んでるリュシア
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