ネいために、クリストフは珍しくも、ルーサン家の夜会に行ったのだった。すると演奏を求められて、心ならずも承知した。それでもやがて、自分のひいてる楽曲の中に我を忘れた。そしてふと眼をあげたとき、数歩先に、一団の人々の中に、こちらを見守ってるリュシアン・レヴィー・クールの皮肉な眼を認めた。彼はある小節の最中にぴたりとひきやめ、立ち上がって、ピアノに背を向けた。人々は当惑してひっそりとなった。ルーサン夫人はびっくりして、強《し》いて微笑を浮かべながら、クリストフのところへやって来た。そして用心深く――その楽曲のまだ終わっていないことがはっきりわからなかったので――彼に尋ねた。
「つづけておやりになりませんか、クラフトさん。」
「もう済みました。」と彼は冷やかに答えた。
そう言ってしまうや否や彼は自分の無作法に気づいた。しかしそのために慎み深くなるどころか、かえってますますいらだった。聴衆の嘲《あざけ》り気味な注目には気も止めずに彼は、リュシアン・レヴィー・クールの挙動が見守れる片隅《かたすみ》に行ってすわった。隣席には、赤いぼんやりした顔をし、薄青い眼をもち、子供らしい表情を浮かべてる、ある
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