害し得ない。なぜなら、最初から彼らは、自分の道は幸福の道と通ずる点は少しもないこと、それでも選択の余地はなく、ただその道を進まねばならないこと、他の道では息がつけないこと、それをよく知っていた。が人は初めからそういう確信に達するものではない。十四、五歳の少年でそれに達せられるものではない。それ以前に、多くの苦悩をなめ、多くの涙を流すものだ。しかしそれでこそよいのだ。そうなければならないのだ……。
[#ここから3字下げ]
おう信念よ、鋼鉄の処女よ……
汝《なんじ》の鎗《やり》もて耕せ、蹂躙《じゅうりん》せられし民族の心を……。」
[#ここで字下げ終わり]
クリストフは黙ってオリヴィエの手を握りしめた。
「クリストフ、」とオリヴィエは言った、「君らドイツは、われわれをひどく苦しめたのだ。」
クリストフは、自分がその原因ででもあったかのようにほとんど謝《あやま》ろうとした。
「なに心配するには及ばない。」とオリヴィエは微笑《ほほえ》みながら言った。「ドイツがみずから知らずにわれわれにしてくれた善は、その悪よりも大きいのだ。われわれの理想主義をふたたび燃えたたせたのは君たちであり、われ
前へ
次へ
全333ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング