に、やって来たんです。というのは、先刻《さっき》あれまで言ったからつけ加えて言うんですが、そうでなけりゃこれまで打ち解けて言えはしないが、僕は――将来はとにかく現在では――君を愛してるんです。」
オリヴィエは耳までも赤くなった。きまり悪くてじっとしながら、なんと答えていいかわからなかった。
クリストフは周囲を見回した。
「ひどい住居ですね。他に室はないんですか。」
「物置みたいなのが一つあるきりです。」
「ああ、息もできない。よくこんな所に住んでいられたものですね。」
「馴《な》れてくるんです。」
「僕ならどうしたって馴れやしない。」
クリストフは胴衣《チョッキ》の胸を開いて、強く息をした。
オリヴィエは窓のところへ行って、すっかり開け放った。
「クラフトさん、あなたは都会にいてはいつも不快に違いありません。が私には、自分の元気を苦しむという憂いはありません。どこへ行っても生きられるほど息が小さいんです。それでもさすがに、夏の夜は苦しいことがあります。夏の夜が来るのを見るとびくびくします。いよいよその時になると、寝台の上にすわっていますが、まるで窒息でもしそうな気がするんです。
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