ていた。種々の感情が水の上をかすめる雲のように去来していた。
「なんという神経質なかわいい男だろう!」と彼は考えた。「まるで女のようだ。」
彼はやさしくその膝《ひざ》に手をやった。
「ねえ、」と彼は言った、「僕が警戒しながらやって来たのだと君は思ってるのですか。友人を相手に心理研究をやるような奴を、僕は大嫌《だいきら》いです。たがいに自由で誠実であって、腹蔵なく、うわべをつくろう恥じらいもなく、いつまでもうち解けないという懸念もなく、たがいに言い逆らうことを恐れもしないで、感じたことをすべてうち明け合うという権利――一瞬間後にはもう愛さなくなっても構わないが、ただ現在は愛してるという権利、それだけが僕の求めるものです。そうしたほうが、いっそう男らしくりっぱではないですか。」
オリヴィエは真実な様子で彼の顔をながめて答えた。
「それはそうに違いありません。そのほうが男らしいです。そしてあなたは強者です。しかし私は、なかなかそうはいきません。」
「いや僕は君を強者だと思ってるんです。」とクリストフは答えた。「ただ違った意味でです。それにまた、もしよかったら僕は君を助けて強者にしたいため
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