想の熱烈さ、などであった。そのために彼らは、晩になるともはや、親しい会談を楽しむだけの力がなかった。最後には、フランス人としては告白するのが恐ろしい、しかも心の底にしばしば唸《うな》っている、同民族の者でない[#「同民族の者でない」に傍点]、という恐ろしい感情であった。われわれは異なった民族の者であり、異なった時代にフランスの土地に居を定めた者であって、一つに結合しながら、共通の思想をもつこと少なく、しかも共同の利益のためにそのことをあまり考えてはいけない、という恐ろしい感情であった。そしてまた何よりも、自由にたいする熱狂的な危険な情熱であった。人はそれを一度味わうと、何物をも犠牲にして顧みなくなる。そしてその自由な孤独境は、多年の困難によって購《あがな》われたものだけに、いっそう貴重なものとなっている。優秀な人々は、凡人らから奉仕されるのをのがれんがために、その中に逃げ込んでいる。それは実に、宗教や政治上の集団の重圧、フランスにおいて個人を押しつぶしてる巨大な重み、すなわち、家庭、世論、国家、秘密結社、党派、徒党、流派、などの暴虐にたいする反動である。たとえば、脱獄せんがためには十重
前へ
次へ
全333ページ中116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング