他日世界から認められると確信していた――そしてそれは彼の自惚《うぬぼ》れでもなかった。クリストフはもっとよく彼を知りたがり、彼と交際をしたがった。しかしその方法がなかった。オリヴィエと彼とは、しばしば用があったけれど、たがいに会うのはごくまれであって、それもただ用件のためばかりだった。彼らは心のうちを少しも語り合わなかった。抽象的な意見を少しばかりかわすのがようやくだった。と言うよりもむしろ――(なぜなら、正確に言えば、意見の交換をすることはなくて、各自に自分の考えを胸中にしまっていたから)――彼らはいっしょになって勝手に独白ばかりしていた。それでも彼らこそ、たがいの価値を知り合ってる戦友どもであった。
そういう控え目なやり方には、彼ら自身でも見分けがたい多くの理由が存していた。第一には、各精神間のいかんともできない差異をあまりにはっきりと見てとる、過度の批評癖であり、それらの差異をあまりに重要視する、過度の理知主義であった。生きんがために愛したがり満腔《まんこう》の愛を消費したがる力強い率直な同情心、それの欠けてることだった。つぎにはまたおそらく、仕事の疲労、あまりに困難な生活、思
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