々をもたがいに武装さしてる猜疑《さいぎ》心、などにすぎなかった。
 たがいに尊敬し合ってる精神の人々が、たとえば雑誌イソップ[#「イソップ」に傍点]におけるオリヴィエやその仲間たちのように、一つの仕事に集まってるときでさえも、彼らはいつもたがいに警戒し合ってるがようだった。ドイツではだれももっていてかえって邪魔となりやすい開放的な朴訥《ぼくとつ》さを、彼らは少しももっていなかった。イソップ[#「イソップ」に傍点]の青年の群れのうちには、ことにクリストフの心をひく者が一人(シャール・ペギー)いた。その男に例外的な力があることを見てとったからである。それは一人の作家で、不撓《ふとう》な理論と執拗な意志とをそなえ、道徳的な観念に熱中し、頑固《がんこ》にその観念に奉仕し、そのためには全世界をも自分自身をも犠牲にするだけの覚悟をもっていた。その観念を擁護せんがために、ほとんど自分一人で一つの雑誌を設けて編集していた。純粋な勇壮な自由なフランスという観念を、ヨーロッパにまたフランス自身にいだかせようとみずから誓っていた。自分がフランス思想史中のもっとも勇敢なページの一つを書いてるのだということは、
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