二十重の壁を飛び越えなければならない囚人を、想像してみるがよい。その囚人が、首の骨も折らず、最後までやりとおすとするならば、彼はきわめて強者だと言わなければならない。それは自由な意志にたいする手荒い鍛錬である。しかし一度それを通り越した人々は、そのきびしい気質を、独立の性癖を、他人の魂と融《と》け合うことの不可能性を、生涯失うものではない。
傲慢《ごうまん》による孤立のほかになお、断念による孤立があった。フランスにおいてはいかに多くの善良な人々が、その温情と矜持《きょうじ》と愛情とのあまり、人生から隠退するにいたってることだろう。あるいは良きあるいは悪き多くの理由が、彼らの活動を妨げていた。ある人々にあっては、それは服従や臆病《おくびょう》や習慣の力などであった。またある人々にあっては、それは、世間体、人に笑われる恐れ、人の眼をひき人に批判され、公平な行為を私心ある動機に帰せられる恐れ、などであった。ある者は政治的社会的な戦いに加わることを欲せず、ある者は博愛事業から顔をそむけていた。なぜなら彼らは、良心と良識とをもたずにそういうことに従事してる者があまりに多いのを見るからであり、自
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