そうだ、僕にとっては、また、真理をにない得るだけ丈夫な腰をもってる者にとっては、真理がいいのだ。しかしその他の者にとっては、それは一種の残酷であり馬鹿げたことだ。そうだ僕は今わかってきた。国にいたらこんなことは頭に浮かびもしなかったろう。あちらでは、ドイツでは、人は君たちのように真理にとっつかれてはしない。彼らは生きることにあまりに執着してる。用心深く見たいことだけを見ている。ところが君たちはそうでない。だから僕は君たちが好きなんだ。君たちは勇敢で、まっすぐに進んでゆく。しかし君たちは人間的でない。一つの真理を発見したと考えるときには、ちょうど聖書にある尻尾《しっぽ》に火のついた狐《きつね》のように、その真理が世界じゅうに火をつけるかどうかはお構いなしに、それを世界に放ってしまう。君たちが自分の幸福よりも真理を取るのは、僕も尊敬するよ。しかし他人の幸福よりもとなると……よしてもらいたいね。君たちはあまりに勝手すぎる。自分自身よりも真理を愛さなけりゃいけないけれど、真理よりも隣人をいっそう愛さなけりゃいけない。」
「では隣人に嘘《うそ》をつかなくちゃいけないのか。」
クリストフはゲーテ
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