|沮喪《そそう》する心地がした。
「君たちはこんなものを民衆に与えるのか。」と彼は尋ねた。幾時間か自分の不幸を忘れようとやって来るのにそういう悲しい娯楽を与えられる、それらの憐《あわ》れな人々を、彼は気の毒に思ったのだった。「まるで民衆を地中に埋めるようなものじゃないか。」
「なに安心したまえ。」とオリヴィエは笑いながら答えた。「民衆はやって来やしない。」
「当たり前さ。君たちは正気の沙汰《さた》じゃない。民衆から生きる勇気を奪ってしまおうとでもいうんだね。」
「なぜだい? 民衆だってわれわれと同じように、事物の悲しさを見てとりしかも落胆せずに義務を尽くすということを、学ばなければならないじゃないか。」
「落胆せずにだって? そりゃ疑問だ。ただ確かなのは、喜びなしにということだけだ。そして、人間の生の喜びを滅ぼしてしまうときには、そのままでゆけるものじゃない。」
「ではどうすればいいのか。だれにも真理を偽る権利はない。」
「しかし、万人に向かって真理を全部言ってきかせる権利もないのだ。」
「君がそんなことを言うのか。君はたえず真理を要求し、何よりも真理を愛してると言ってたくせに!」
「
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