すべてが数分間のうちに彼の眼に浮かんだ。彼はそれらの故人(アーダをも彼は故人のうちに数えていた)から身をもぎ離すことができなかった。愛する人々のうちでただ一人生き残ってる母を、それらの幽鬼中に残してゆくことを考えると、さらに堪えがたかった。彼はまた国境を越えてもどろうとした。それほど、逃亡を求めたことが卑怯《ひきょう》に思われた。ロールヘンがもたらすはずの母の返事に、もしもあまり大きな悲しみが現われていたら、どんなことがあっても帰ろうと決心した。しかし、もし何にも受け取らなかったら? もしロールヘンがルイザのもとまで行くことができないか、あるいは返事をもって来ることができないかしたら? やはり帰るとしよう。
彼は停車場へもどった。侘《わ》びしく待ちあぐんだ後、ついに汽車が現われた。クリストフは車室のどの扉口《とぐち》かに、ロールヘンの精悍《せいかん》な顔つきを待ち受けた。彼女が約束を守ることを確信していたのである。しかし彼女は姿を見せなかった。彼は不安になって、車室から車室へと駆け回った。そして乗客の人波に駆けながらぶっつかってると、見覚えがあるように思われる一つの顔を認めた。十三、
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