着して、それを捨て去ることのできない血統だった。
 こんどはクリストフの番となって、その同じ道程をまたたどってるのであった。そして彼は途上に、先だった人々の足跡を見出していた。彼は眼に涙をいっぱい浮かべて、祖国の土地が靄《もや》の中に消えゆくのをながめた。それに別れを告げなければならなかった。……彼は祖国を離れたいと熱望していたではないか?――そうだ。しかしほんとうに祖国を去る今となっては、苦悶《くもん》に身をしぼらるる心地がした。生まれた土地からなんらの感情もなく別れ得るものは、動物の心よりほかにない。幸福にせよ不幸にせよ、生まれた土地とともに暮らしたのだ。それは母であり伴侶《はんりょ》であった。その中に眠り、その上に眠り、それに浸されていた。その胸の中には、吾人の貴い夢が、吾人の過去の全生涯が、吾人の愛した人々の聖《きよ》い塵《ちり》が、蓄《たくわ》えられているのだ。クリストフは、自分の日々の生活と、その土地の上にまた下に残してる親愛な面影とを、眼前に思い浮かべた。彼にとっては、苦しみは喜びに劣らず貴いものだった。ミンナ、ザビーネ、アーダ、祖父、ゴットフリート叔父、シュルツ老人――
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