身を護る要もなかったので、待合室の腰掛に長々と寝そべって、ぐっすり眠り込んでしまった。

 彼は午《ひる》ごろ眼を覚ました。ロールヘンは二時か三時より前には来るはずがなかった。彼は汽車の到着を待ちながら、その小駅のプラットホームの上を百歩ばかり歩いた。それからまっすぐに牧場の中へ行った。冬の来るのを思わせる灰色の陰気な日だった。日の光が眠っていた。運転されてるある列車の寂しい汽笛の音ばかりが、もの悲しい静けさを破っていた。クリストフは蕭条《しょうじょう》たる野の中で、国境から数歩の所に立ち止まった。彼の前にはごく小さな沼があった。いと清らかな水|溜《たま》りで、陰鬱《いんうつ》な空が反映していた。沼には柵《さく》がめぐらされて、二本の樹木が岸に立っていた。右手のは白楊樹《はくようじゅ》で、梢《こずえ》の葉は落ちつくして震えていた。後方のは大きな胡桃《くるみ》の木で、黒い裸の枝を差しのべて偉大な蛸《たこ》のような格好だった。まっ黒な実が房《ふさ》になって重々しく揺いでいた。枯れて散り残った木の葉がおのずから枝を離れて、静まり返ってる沼に一つ一つ落ちていた……。
 彼はそれらをかつて見たこ
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