膜《こまく》の破れるような鋭い声で、さらに高く叫んだ。
「第一お前さんには、なんの言い草があるんですか。隣りの室に半分死んでるようになってるあの男を、先刻《さっき》お前さんが蹴りつけてたのを、私が見なかったとでも思ってるんですか。それからお前さんは、ちょっと手を見せてごらんなさい。……まだ血がついています。ナイフをもってるところを、私に見られなかったとでも思ってるんですか。もしお前たちが、あの人にちょっとでもひどいことをしたら、私は見たことをみんな、みんな言ってやります。お前たちをみな罪におとしてやります。」
 百姓らは激昂《げっこう》して、その怒った顔をロールヘンの顔に近づけ、鼻先で怒鳴りつけていた。そのうちの一人は、彼女を打とうとする様子をした。ロールヘンに惚《ほ》れてる男は、その男の襟首《えりくび》をつかんだ。そして二人はなぐり合わんばかりになって、たがいに身構えをした。一人の老人がロールヘンに言った。
「俺《おれ》たちがみな仕置きにあったら、お前もあうぞ。」
「私もあいましょう。」と彼女は言った。「私はお前さんたちのように卑怯《ひきょう》じゃありません。」
 そして彼女はまたし
前へ 次へ
全527ページ中505ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング