も彼女へ口をききたくはなかった。終わりに彼女は、彼の鼻先で笑い出して、仲間の方へ帰っていった。彼はいつまでもそこに横たわっていた。そのうち夕方になると、彼女は背負い籠《かご》を背にし、露《あら》わな両腕を組み、少し前かがみになって、たえず談笑しながら立ち去っていった。
 彼は二、三日後、町の市場の、にんじんやトマトやきゅうりやキャベツなどが山のように積まれた中で、また彼女を見かけた。その時彼は、売りに出された奴隷のように、籠の前にずらりと立ち並んでる女商人の群れをながめながら、ぶらぶら歩いていた。金袋と切符束とをもってる警官が、彼女らの前を順次に通っていって、貨幣を受け取り切符を渡していた。コーヒー売りの女が、小さなコーヒー壺《つぼ》がいっぱいはいってる籠《かご》をもって、列から列へと歩き回っていた。快活な太った一人の老尼が、腕に二つの大きな籠をさげて市場を回り、神様のことを語りながら、恥ずかしげもなく野菜の寄進を求めていた。人々は大声に叫んでいた。緑色にぬった皿《さら》をそなえてる古い秤《はかり》が、鎖の音といっしょにきしり鳴っていた。小さな車につけられてる大きな犬どもが、自分の大事
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