ストフは勇気を振るい起こして、老母の手に自分の手をのせて言った。
「お母さん、私は少しお話ししたいことがあるんです。」
 ルイザははっとした。しかしにこやかな様子をしようとつとめながら、答えた――喉《のど》をひきつらして。
「どういうことですか。」
 クリストフは口ごもりながらも、出発の意志を告げた。彼女はいつものとおり、それを冗談にして話をそらそうとした。しかし彼は気色を和らげないで、こんどはいかにも思い込んだ真面目《まじめ》なふうで言いつづけたので、もはや疑う余地はなかった。すると彼女は口をつぐみ、血の流れも止まり、無言のまま冷たくなって、怖《お》じ恐れた眼でじっと彼をながめた。そして非常な苦悶《くもん》の色が彼女の眼に上ってきたので、彼の方でも言葉が出せなくなった。そして二人とも默っていた。ついに彼女はほっと息をつくとともに、言った。――(その唇《くちびる》はふるえていた。)
「そんなことがお前……そんなことが……。」
 大粒の涙が二つ彼女の頬《ほお》に流れた。彼はがっかりしてわきを向き、両手に顔を隠した。二人は泣いた。しばらくしてから、彼は自分の室にはいって、翌日まで閉じこもっ
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