。それは愛せんがためには生きることを犠牲にし、また他人にも、自分の愛する人々にも、同じ犠牲を求めていた。ああ、単純なる魂の愛の力よ! その力は、たとえばトルストイのごとき不安定な天才の模索的理論や、あるいは死滅しつつある文明のあまりに精練されたる芸術などが、激しい闘争や傾け尽くされたる努力の一生――数世紀――を終わると、いかなる帰結に到着するかを、一目で見出させてくれる……。しかしながら、クリストフのうちにうなっていた傲然《ごうぜん》たる世界は、はるかに異なったる法則をもっていて、他の知恵を要求していた。
彼は久しい前から、自分の決心を母へ告げたがっていた。しかし母に与える苦しみを思っては、ひどく恐れていた。口へ出そうとすると、卑怯《ひきょう》な気持になって、また先へ延ばした。それでも二、三度彼は、おずおずと出発のことをほのめかした。しかしルイザはそれを真面目《まじめ》に取らなかった――おそらくは、彼自身にも冗談に言ってるのだと思わせんがために、真面目に取らないふうを装《よそお》ったのであろう。すると彼はもう言い進むことができなかった。ただ陰鬱《いんうつ》に考え込んでばかりいた。何か
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