必要であったろう。それらの不幸な人々から支持となる幻影を奪い去ることは、クリストフもこれを罪悪だと見なしたかった。しかし彼自身は、そういう欺瞞《ぎまん》に頼り得なかった。彼は幻影に生きるよりはむしろ死を望んでいた……。しかるに、芸術もまた一つの幻影ではないのか?――否、芸術は幻影たるべきではない。真理だ! 真理! 両眼を大きく見開き、全身の気孔から生命の強烈なる気を吸い込み、事物をあるがままにながめ、不幸をも正視し――そして笑ってやることだ。

 数か月過ぎていった。クリストフは自分の町から外へ出る望みを失った。彼を救い得るかもしれなかった唯一人のハスレルは、助力を拒んでしまった。またシュルツ老人の友情も、与えられて間もなく奪い去らるることとなった。
 彼は帰ってから一度シュルツへ手紙を書いた。そして愛情に満ちた手紙を二通受け取った。しかし懶《ものう》い気持のために、ことに考えを文字で書き現わすことが困難だったために、彼はその親愛な文句を感謝するのを遅らした。一日一日と返事を延ばした。そしていよいよ書こうと決心しかけると、クンツから短い便《たよ》りが来て、老友の死を報じた。その報知によ
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