トフはそれを横目で見やって、笑いたくなった。彼はもう許してやっていた。彼は決して真面目《まじめ》に怒るつもりではなかった。この憐《あわ》れな老人を悲しませるのは畜生にも等しいとさえ思っていた。しかし彼は自分の力を濫用したのであって、また、前言を翻す様子をしたくなかったのである。彼らは森を出るまでそのままの状態だった。聞こえるものはただ、当惑してる二人の老人の引きずるような足音ばかりだった。クリストフは口笛を吹いて、二人の方を見ないふうをしていた。とにわかに、彼はたまらなくなった。彼は放笑《ふきだ》して、シュルツの方へ振り向き、丈夫な手でその両腕をつかんだ。
「ああ、シュルツ!」と彼はやさしげにその顔をながめながら言った、「いいですね、いいですね!……」
 彼は景色と天気とのことを言ってるのだった。しかし笑ってる彼の眼はこう言ってるがようだった。
「あなたはいい人だ。僕は乱暴者だ。勘弁してください。僕はあなたが大好きだ。」
 老人の心は解けた。日食のあとにまた太陽が出たようなものだった。一瞬間待たなければ言葉を発することができなかった。クリストフはまた彼の腕をとって、このうえもなく親しげ
前へ 次へ
全527ページ中405ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング