ができなかった。彼は耳を傾けながらぼんやりした夢想に身を任せ、夢想の中で言葉は音楽に代わって、その言葉をすっかり忘れてしまった。彼はシュルツの記憶に感嘆した。一年の大部分は室の中に閉じこもり、ほとんど一生の間|田舎《いなか》の町に閉じこもってる、不具に近いこの病身な老人の元気――それからまた年若くて、芸術運動の中心地に名声を馳《は》せ、そして各地の演奏のためにヨーロッパじゅうを歩き回り、しかも何物にも興味を覚えず、何物をも知ろうとしないハスレル、両者の間にはいかに大なる差異があることぞ! シュルツは単に、クリストフが知ってる現在の芸術界の諸相に通じてるばかりでなく、クリストフが聞いたこともないような過去の音楽家や外国の音楽家などについても、豊富な知識をもっていた。彼の記憶は深い天水|桶《おけ》のようであって、あらゆる清い天水が蓄《たくわ》えられていた。クリストフはあきずにその水をくみ出した。そしてシュルツはクリストフの興味を見てうれしがった。彼は時々、慇懃《いんぎん》な聞き手や従順な学生などに出会うこともあった。しかしながら、息づまるまでにあふれてくる感激の情を分かち得るような若い熱烈
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