ストフが挨拶《あいさつ》をしてる鳥に拳固《げんこ》をさしつけ、この馬鹿者を、この腹声の化《ば》け物を、もって行っちまえと怒鳴ってるのを見た時、彼は生涯初めて、その音が実際たまらないものであることを感じた。そして椅子《いす》をもっていって、その邪魔物を取りはずすために上に登ろうとした。しかし彼は落ちかかった。クンツは彼がまた椅子に登ろうとするのをとめた。彼はザロメを呼んだ。彼女はいつものとおりゆっくりやって来て、クリストフが我慢をしかねて自分で取りはずした掛時計を、腕に渡されるのを見て、呆気《あっけ》に取られた。
「これをどうせよとおっしゃるんですか。」と彼女は尋ねた。
「勝手にするがいい。もってゆけ。もう二度と見せるな。」クリストフと同じく短気にシュルツは言った。
 彼はその厭《いや》な音をどうしてこう長く我慢できたかみずから怪しんでいた。
 ザロメは確かに皆は気が狂ったのだと思った。
 音楽はまた始まった。幾時間かたった。ザロメがやって来て、午餐《ごさん》の支度《したく》ができたことを知らした。シュルツは彼女を黙らした。彼女は十分後にまたやって来、それからふたたび、十分後にまたやって
前へ 次へ
全527ページ中395ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング