動を受けた。そういう時彼はひどく心をそそられて、自分ながらばかばかしく思えるにもかかわらず涙を浮かべまでした。その他の時は何のこともなく、彼にとってはただ音響だけにすぎなかった。そのうえ一般的に言えば、作品のうちのよくない部分――まったく無意義な楽節――にばかり感動していた。――彼らは夫妻とも、クリストフを理解してると思い込んでいた。そしてクリストフも、理解されてると思い込みたかった。けれど時々二人をからかってやろうという意地悪い欲望が起こった。彼は罠《わな》を張って、なんらの意味もないものを、くだらぬ曲を、ひいてきかせながら、それは自分の作だと彼らに思わせておいた。それから彼らが非常に感心すると、ありていに白状した。それで彼らは用心した。次にクリストフが様子ありげに一曲をひくと、彼らはまただまされるのだと想像した。そしてそれを悪口言った。クリストフは彼らに悪口を言わせ、自分もそれに言葉を合わせ、その曲は一文の価値もないと承認し、それからにわかに口を切った。
「ひどい人たちだ。ごもっともですよ。……これは僕のだから。」
彼は二人をうまくだまかすと、王様にでもなったように喜んだ。ライン
前へ
次へ
全527ページ中325ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング