譜面台から離るるのを見るや否や、彼は桟敷《ボックス》の外に飛び出したのだった。楽長をとらえてその横面《よこつら》をはりとばしてやるために、二階の階段を駆け降りていった。いっしょにいた友人は、彼を追っかけていって引き止めようとした。しかしクリストフは、その友人を押しのけて、危うく階段の下へつき飛ばすところだった。――(その男も彼を穽《おとしあな》に陥れた同類だと信ぜらるる理由があった。)――オイフラートにとってもまたクリストフにとっても仕合わせなことには、舞台へ通ずる扉《とびら》が閉《し》まっていた。クリストフが怒りに任せてうちたたいても、それは開かなかった。そのうちに聴衆は場席から出始めていた。クリストフはそこにじっとしてることができなかった。彼は逃げ出した。
 彼は名状しがたい心地になっていた。狂人のように、両腕を打ち振り、目玉をぎょろつかせ、大声で口をききながら、当てもなく歩いていった。彼は憤怒の叫び声を押え止めていた。街路にはほとんど人影がなかった。その音楽会場は、町はずれの新開地に前年建てられたものだった。クリストフはただ本能的に、田舎《いなか》の方へ逃げようとして、孤立した小
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