屋や板囲いの建築足場などが立ってる荒れ地を横ぎっていった。彼は殺害心を起こしていた。かかる侮辱を自分に加えた男を殺したかった……。がしかし、その男を殺したとて、あれらすべての人々の悪意が少しでも変わるであろうか。彼らの嘲笑《ちょうしょう》がまだ彼の耳には響いていた。彼らはあまりに多勢で、彼はどうともしようがなかった。彼らは彼を辱《はずかし》め押しつぶしてやろうと――他の多くのことにはそれぞれ意見を異にしていながら――皆一致していた。まったく訳のわからないことだった。彼らは彼を憎んでいた。いったい彼は彼ら皆に何をしたのであったか。彼は自分のうちに、美しいものを、人のためになり心を愉快ならしむるものをもっていて、それを語りたく思い、それを他人にも楽しませようと思ったのだ。そしたら彼らも自分と同様に楽しくなるだろうと思っていたのだ。たとい彼らはそれを味わい得なくとも、少なくとも彼の意向には感謝すべきだった。少なくとも、彼らは彼の思い違いの点を親しく注意してやり得るはずだった。しかしそうはしないで、彼の思想をいやに曲解して、それを侮辱し踏みにじり、彼を笑殺せんとして、意地悪い喜びにふけるとは、
前へ
次へ
全527ページ中277ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング