その奥で眠っても踊っても構わない。女を連れてゆくさ。幾人かあるだろう。入用なら貸してやってもいいよ。」
クリストフは切符をマンハイムに差し出した。
「いや、どうしてもいやだ。取ってくれ。」
「取るもんか。」とマンハイムは数歩|退《さが》りながら言った。「厭なら無理に行ってくれとは言わない。だがもうそれは受け取らないよ。火にくべようと、または律義《りちぎ》者の真似《まね》をしてグリューネバウムの家へ届けようと、それは君の勝手だ。もう僕に関係したことじゃない。さよなら。」
彼は手に切符をもってるクリストフを往来のまん中に置きざりにして、逃げて行ってしまった。
クリストフは困った。グリューネバウムの家へ切符をもってゆくのが至当であると、はっきり思ってもみた。しかしその考えにはあまり気乗りがしなかった。心を定めかねて家へ帰った。気がついて時計をながめてみると、もう芝居へ行くために着替えるだけの時間しかなかった。いずれにしても切符を無駄《むだ》にするのはあまり馬鹿げていた。母へいっしょに行こうと勧めてみた。しかしルイザは、これから寝る方がいいと言った。彼は出かけた。心の底には子供らしい楽し
前へ
次へ
全527ページ中179ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング