卑しくしていた。傲慢《ごうまん》でありまた種々の理由から傲慢であり得るこのユダヤ女、銀行家マンハイムの、知力すぐれ人を軽蔑《けいべつ》しがちなこの娘は、身を堕《おと》したがっていたし、自分が軽蔑《けいべつ》してるドイツの小中流婦人らのいずれもと、同じようなことをしたがっていた。
経験は短かかった。クリストフはユーディットに幻をかけたのとほとんど同じくらいに早く、その幻を失ってしまった。それにはユーディットの方でも、彼に幻を持続させるための労を少しも取らなかった、ということを認めなければならない。かかる気質の女が、相手を判断し相手から離れてしまうと、もはやその日から彼女にとっては、その相手の男は存在しないも同じである。彼女はもはやその相手を眼に留めない。そして自分の犬や猫《ねこ》の前で赤裸になるのをはばからないと同じように、その相手の前で平然たる厚かましさをもっておのれの魂を赤裸にしてはばからない。クリストフはユーディットの利己心を、その冷血を、その凡庸な性格を、見て取った。彼はすっかり虜《とりこ》になってしまう隙《ひま》がなかった。それでも、彼を苦しめるには、彼に一種の苦熱を与える
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