れがしていて、いかにもドイツの女らしくは見えないようにできていたけれど――しかし彼女らは皆、奇体にドイツ婦人となっていた。話し振りから着物の着方までそっくりで、時としてはあまり似通いすぎていた。ユーディットはだれよりもまさっていた。そして他の女たちと比較してみると、彼女の理知のうちには特殊な点が見え、彼女の一身のうちには人工になった点が見えていた。それでも彼女はやはり、他の女たちの欠点の多くをそなえていた。精神的にははるかに自由――ほとんど絶対に自由――であったが、社会的には、より自由ではなかった。もしくは少なくとも、社会的の問題になると、彼女の実利的観念がその自由な理性と交替するのだった。彼女は世間や階級や偏見に結局は自分の利益を見出したので、それらを信じていた。いかにドイツ精神を嘲《あざけ》っても、やはりドイツの風潮に執着していた。著名な某芸術家の凡庸《ぼんよう》さを賢くも感ずるとしても、なお彼を尊敬しないではおかなかった。なぜなら彼は著名であったから。そしてもし個人的に彼と交際がある場合には、彼を賞賛するのだった。なぜならそれは彼女の虚栄心を喜ばせることだったから。彼女はブラーム
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