驚くほど速やかに、新しい祖国の精神的習慣を、実を言えば精神よりも多くその習慣を、取り入れてしまう。ところが習慣というものは、あらゆる人間にあっては第二の性質であるが、大多数の人間にあっては唯一無二の性質となるから、その結果、一つの国に土着せる公民の多数が、深い正当な国民的精神をみずからは少しももたないでいて、イスラエル人にそれが欠けていると非難するのは、きわめて不都合なことと言わなければならない。
 女は常に、外的影響に、より敏感であり、生活条件に順応しそれに従って変化するのが、より迅速《じんそく》ではあるが――イスラエルの女は、全ヨーロッパを通じて、住んでる国土の肉体的および精神的の風潮を、しばしば大袈裟《おおげさ》に採用するが――それでもなお、民族固有の面影を、その濁った重々しい執拗《しつよう》な風味を、失うものではない。クリストフはそれに驚かされた。彼はマンハイム家で、ユーディットの伯母《おば》たちや従姉妹《いとこ》たちや友だちらに出会った。彼女らのうちのある顔は、鼻に近い鋭い眼や、口に近い鼻や、きつい顔立ちや、褐《かっ》色の厚い皮膚の下の赤い血などをもってして、いかにもドイツ離
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