女の兄は時々、途方もない荘厳な決心を言明しながら、それを実行しないようによく用心していたのである。ところが次に、クリストフがほんとうにそれらの言葉を妄信《もうしん》していることを見て取ると、彼女は彼を狂者だと判断して、もはや、彼に興味を覚えなかった。
それ以来彼女はもはや、彼によく思われるように見せかけようとは努めなかった。ありのままの自分をさらけ出した。そして彼女は、最初の様子にも似ず、またおそらく彼女が自分で思ってるよりも、ずっとドイツ的であり、しかも平凡なドイツ女であった。――イスラエル民族に非難するのに、彼らがいかなる国民にも属さないで、種々の民衆のうちに居を定めても少しもその影響を被《こうむ》らず、特殊な同一性質を有する一民衆を、ヨーロッパにまたがって形成してるということをもってするのは、まさしく不当である。実際、通過する国々の痕跡《こんせき》を、イスラエル民族ほど容易に受けやすい民族は他にない。フランスのイスラエル人とドイツのイスラエル人との間には、多くの共通な性格がありはするけれども、なおいっそう多くの異なった性格がある。それは彼らの新しい祖国に起因するのである。彼らは
前へ
次へ
全527ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング