しょに来ないかと尋ねた。未明に二人はいっしょに出かけた。何も語る必要はなかった。たがいに了解していた。墓地のそばを通ると、ゴットフリートは言った。
「はいろうよ、ね。」
 彼はこの地へ来るとかならず、ジャン・ミシェルとメルキオルとを訪れていた。クリストフはもう一年も墓参をしたことがなかった。ゴットフリートはメルキオルの墓の前にひざまずいた、そして言った。
「このお二人がよく眠るように、そして私たちを悩ますことのないように、お祈りをしよう。」
 彼の考えはいつも、不思議な迷信と明るい分別とが交り合っていた。クリストフは時としてそれに驚かされることがあった。しかしこんどは、その考えをよく了解した。二人は墓地を出るまで、それ以上何にも言わなかった。
 きしる鉄門をまたしめてから、二人は壁に沿って、雪の滴《したた》りが落ちてる墓地の糸杉《いとすぎ》の下の小道をたどり、眼覚めかけてる寒そうな畑中を歩いて行った。クリストフは泣きだした。
「ああ、叔父《おじ》さん、」と彼は言った、「僕は苦しい!」
 彼の恋の経験については、ゴットフリートを困らすだろうという妙な懸念から、あえて語り得なかった。そして
前へ 次へ
全295ページ中290ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング