いなかった。そして意志はそれらの怪物の群に脅かされていた。性格はきしり揺らいでいた。他人の眼には、その地震は、その内部の大|漲溢《ちょういつ》は、少しも見えなかった。クリストフ自身にも、意欲し創造し生存するの力がないことだけしか、見えなかった。欲念、本能的衝動、思想などが、あたかも火山地帯から硫黄《いおう》の煙が噴出《ふきだ》すように、相次いで飛び出してきた。そして彼はみずから尋ねた。
「こんどは何が出てくるだろう? 俺はどうなるだろう? いつもこうだろうか、あるいはすっかりおしまいになるだろうか? 俺は取るに足らない者だろうか、いつまでたっても?」
そしてここに、遺伝的な本能が、先人らの悪徳が、現われ出て来た。
彼は飲酒にふけった。
彼はいつも、酒の匂いをさせ、笑い興じ、ぐったりして、家にもどってきた。
憐《あわ》れにもルイザは、彼の様子をながめ、溜息《ためいき》をつき、なんとも言わず、そして祈りをした。
ところがある晩、彼は酒場から出て、町はずれの街道で、数歩前のところに、例の梱《こり》を背負ってるゴットフリート叔父《おじ》のおかしな影を見つけた。数か月来、この小男は土
前へ
次へ
全295ページ中286ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング