常生活が眠りに入って、スフィンクスの眼が、「存在」の多様な面貌《めんぼう》が、睡眠の深淵《しんえん》から浮かび上ってくる眩迷《げんめい》の瞬間に、よく現われてきた。クリストフは一年ばかり前から、ことにひどく幻夢につきまとわれた。その中で彼は、自分が同時に異った数多《あまた》の存在で、往々幾世界と幾世紀とで隔てられた遠い数多の存在[#「存在」に傍点]であることを、いかんともできない幻によって、一瞬間のうちにはっきり感ずるのであった。覚醒の状態になっても、その不安な幻惑がまだ残っていて、しかもその原因がなんであったかは覚えていなかった。それはあたかも、一つの固定観念からくる疲れのようなものであって、観念が消え失《う》せてもその痕跡《こんせき》は残っており、しかもそれがなんであったかはわからない。しかるに、彼の魂が日々の網の目の中で苦しげにもがいてる一方には、注意深い晴朗なも一つの魂が彼のうちで、それらの絶望的な努力を傍観していた。彼の眼にはそれが見えなかった。しかしそれは彼の上に、おのれの隠れた光の反照を投げかけていた。その魂は貪慾《どんよく》であって、現在の男や女や大地や情熱や思想などを
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