る飛躍である。目指すところは自然なる真実、道程は力強き反抗苦闘、心にいだくところは生命の愛。その理想は外部より魂を束縛する何かではなく、魂を自由に解放することそのことである。地上につながるる奴僕たることを脱して、自由の天空に翔《かけ》る太陽の子たらんとすることである。かくて、勝利の栄光をもっておのれの旗を彩《いろど》るか、あるいは傷つき斃《たお》れておのれの血潮でおのれの旗を染むるか、それは問題ではない。いう、人生は一編の悲劇なりと。
人生をして悲劇たらしむるところのものは、過去と未来との断つべからざる連鎖であり、個々の上にかかる全体の圧力である。ピラミッドを組み立つるおのおのの石塊は、全体をピラミッドたらしめた深く遠い原因と、全体より来る重力とを、おのれ自身の上に荷《にな》っている。その二つを苦しむことによってしか、ピラミッドより脱することはできない。過去と全体とが有する虚偽を苦しむところにこそ、真の自覚が生まれてくる。自覚したる天才が、新たな未来を開拓せんとする時、現在を基点として一大転向を企図せんとする時、過去と全体とは彼の槓桿《こうかん》の上にのしかかってくる。その重みに堪え
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