ピラミッドは長くピラミッドたらんことを欲する。それを組立つるおのおのの石塊に向かって、一定の形を要求する。所要の形を具えないものがある時には、そこより崩壊を起こす憂いがあるからである。特殊の形を有するものは、全体の安寧を害するのゆえに容《い》れられない。かくてすべては都合よき形にゆがめられている。ゆがめられ平たくなされた面と面とが相接して、動きがとれなくなっている。そこにはもはや、個々の自由は存しないで、永遠の束縛と窮屈とが存するのみである。しかも最も恐るべきことは、かかる不自然な形に慣れきったあまり、それをもって自然な形と自認することである。おのれの魂をピラミッドの覊絆《きはん》より解放して自然の形に正すこと、それさえも忘れられてくる。
 ピラミッドをして平坦ならしめよ! これは自然そのものの声である。目覚めたる心の叫びである。それはあらゆる虚偽と停滞とに向かって飛びかかり、あらゆる仮面を引剥《ひきは》がずんばやまない。そこにはただ一筋の道あるのみである。真実を求めて赤裸の魂が突進する戦いの道である。善悪、美醜、正不正も、やがては第二義的のものにすぎなくなる。要は生命それ自身の自由な
前へ 次へ
全15ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング