がら、救済は戦の後にしか来ない。なぜなら、新らしい時代の神は、肉と血と生命とを具えた戦いの神であるから。そして、戦によって得られた平和は、やがて次の戦の序曲となるであろう。平和と戦とが一つに綯《な》われて、そこに輝かしい生命の交響楽が作られるであろう。そういうところまでたどりついたジャン・クリストフは、すでに新らしき日を肩に荷《にな》っていた。新しき日の戦に戦うものは、他のジャン・クリストフ、その戦のために生まれ変わってくるジャン・クリストフ、でなければならなかった。争闘と苦悶とに鍛えられた生命の響きと、永遠なる芸術の香りとのなかに、ジャン・クリストフがふたたび甦《よみがえ》るために死にゆく時、昼と夜、愛と憎悪、その力強き二つの翼ある神を讃《たと》うる歌が響いてきた。
「ジャン・クリストフ」十巻を書いた時、作者ロマン・ローランの眼には、最近の欧州大戦役の修羅場《しゅらじょう》が映じていたかどうかを、私は知らない。しかし彼の眼には、新らしい生命の力に目覚めた世界が映じていたであろう。そこにおいては、愛と憎悪と、戦と平和と、昼と夜と、生と死とが、たがいに交錯して永遠に波動している。そこにう
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